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菅野彰

菅野彰の日記です

「私の美容師」

 どのように変だったか、ちょっと子細に語ります。
 仕事のことについて問われたことは、前に書いた通り。文筆業かと問われてそうですと言ったら、
「あはは、やっぱり? 会社って感じしないもん」 
 と、笑い飛ばした彼です。
 美容院は中央線沿線なのですが、私が福島だと彼が気づき、話題を探したんだと思います。お客と楽しく会話するのも、美容師さんのお仕事のうちみたいなものですよね。
「福島かあ、福島……行ったことないなあ。行きたいと思ったこともないかなあ」
 福島について、彼は考えた。
「あ!」
 しかし彼は思い出しました。
「美容師になってすぐに、一人で行ったよ福島!」
 多分彼は三十後半くらいだと思うので、太古の昔の記憶で本当に忘れていたのでしょう。
「観光で?」
「ううん、そうじゃなくて。僕、苗字が○○っていうんだけど、会津藩の昔の藩主と同じ苗字で、なんか関係があるんじゃないかと思って、ふと思い立ってふらっと行った」
 その苗字は確かに、私も聞いたことがありました。
「そんでその人のお墓かなんかの前に行ったんだけど、なあんにも感じなかったねえ。もっとこう、血が騒ぐんじゃないかと思ったんだけど」
 うん本当に変な人だね、君。
「そんで、せっかくだから喜多方ラーメン食べて帰ろうと思ったんだけど、電車が一時間に一本しかなくてさ」
「ノープランで行ったの?」
「何も調べてなくて、そんでタクシーで行ったんだけど」
「え? 若松から喜多方にタクシーで? それって結構な金額じゃなかった?」
「うん、でも旅行だからいいかと思って。でも喜多方着いたらもう夕方で、ラーメン屋がみんな閉まっててさー。もう散々だったな。ろくな思い出ないよ、福島」
 それが彼の、福島にまつわる話題。
 そして彼は私のカルテを見て、私があれこれ髪を傷めることをしていることに気づきました。
「なんでこんだけやってて、髪傷んでないの?」
 訝しげに尋ねられて、
「椿油、ドライヤーの前に使ってる」
「ふうん、じゃあそれ必ず続けて」
 そして仕上げに、
「ワックスつけていい?」
 と、聞かれたので、
「どうぞ」
 と、答えたらワックスをつけながら、
「これで良かったかな。普段どんなワックス使ってるの?」
 そう聞かれまして、
「普段は使わない」
 と、言ったら手を止めて、
「使わないなら使わないって言ってよ、つけちゃったじゃない!」
 若干怒り出しました。
 変なやつですが、私は彼が好きです。
 何故なら、この人の言ってること、多分一つも嘘がない。
 普通の美容師さんなら、それがお仕事ですから、
「これがいいよあれがいいよ」
 と、髪が傷まない何かをセールスすることもあると思います。前の担当者はそうでした。しかしやつはしない。おべんちゃらも言わないし、私が適当にワックスをつけさせたら怒り出す始末。
 客商売向いてないかも知れないけど、店長になったんだから、腕一つで生きて来たのでしょう。
 たまに髪を切って貰う分には、ただおもしろいです。

 全く話は変わりますが、昨日CDを買いました。中にライブのお知らせが入っていて、
「ふうん、ライブやるんだ。行きたいな」
 と、しばらくその紙を見ていて、もうそのライブがとっくに終わっていることに気づきました。私の日付感覚が、月単位で狂っている。
 その後月夜野と電話をしていて、月夜野が、
「で、明後日が何日で、週末の何日までになになにしなくちゃならないから、今日はなんとかで」
 みたいな話をしていて、日付感覚が完璧なんです。
 お勤めの方には当たり前のことかも知れませんが、私や月夜野のように日々の節目があまりない生活をしていると、日付感覚を見失いがちなので私は感心して、
「すごいね、その完璧な日付感覚。私なんか今日、先月のライブに行こうとしたのに」
 と、言ったら、普通に、
「あたし日付に対してギラギラしてるの」
 と、いう答えが返ってきました。
「あはは! 何それ!」
「日付に対してガツガツ生きてるのよ」
 月夜野は時々、ワケがわかりません。
  1. 2012/07/05(木) 12:12:58|
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