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菅野彰

菅野彰の日記です

「今だからこそ知っていただきたいこと、一緒に考えたいこと/児童相談所非常勤弁護士」(代理掲載・菅野彰)

はじめに。
わたしが親しくしている弁護士さんから、今回多くの方が胸を痛めている虐待死と、児童相談所の件についてメールをいただきました。
この文章の中でわたしがたくさんの方に留意して欲しいと思うのは、ここです。
「いろいろな署名活動が回っていますが、ひとつひとつ、制度を調べて、本当によいのかなってみんなで考えていければと思います。」
SNSには、様々な言葉が飛び交います。
それらを読みながら、「実体験です」「これが今回の件の全てだ」というような断定を多く見かけます。
それが本当に事実なのか、検証することは難しいように思うかもしれない。
けれど、ネット社会である今、ある程度は事実に近いところまで当たることは可能です。
今回、本当に痛ましい出来事が起きて、わたしも言葉にならないです。このことについては何も言葉が出ない。ごめんなさい。
こういった出来事が多くの人に周知されて、同じようなことが起こらない明日を迎えるためには、「事実」をもって向き合わなければならないと、私はこの件だけでなく、どの件にも思うことです。
大きな悲劇は、「感情による認知の歪み」を引き起こして、その歪みは、「同じことを起こしたくない」という望みから逆行してしまうことがある。
少しかたい言い方になってしまいました。
うーんと。
「こんなこと起こらないようにしなきゃ! 子どもたちの命を守らなきゃ! あ、こんなツイートがある! そうなの!? 酷い! 署名しなきゃ! 拡散しなきゃ!」
その「署名しなきゃ。拡散しなきゃ」の前に、一旦止まって、調べてみよう。せっかくそこに救いたいという尊い気持ちがあるんだから、有効にそれを作用させたいよね。一人でも助けることが、望みのはず。
具体的には、多く拡散されているツイートにもし共感したら、リプ欄を読んでみることをわたしはお薦めします。これはとても簡単な方法。そこには、「いえ、わたしはこういう逆のことがあった」という事例が書いてあったりします。もちろんそれも事実とは限らない。
でもこれが一番、「様々な事実がある」ということを知る簡単な方法なんじゃないかと思うの。
そこから更に知ろうと思えたら、検索など、方法は広がっていくと思います。
そういう様々な「知ることのできる言葉」の中の、実際に児童相談所の非常勤弁護士をしている方の一人の経験です。
参考の一つとして、読んでみてください。
(菅野彰)


私は、2009年からはある児童相談所の嘱託弁護士として、2017年度からは、非常勤弁護士として稼働しています。

今、結愛ちゃんの件で、皆さんが心を痛めておられて、二度とこのような虐待が起きないように、いろいろ考えてくださっています。この分野の専門家として、とてもありがたい事だと思っていますが、専門家であるが故になかなか声に出しずらい部分もおおくてここまでなにもお話ししてきませんでした。

でも、伝えたいこと、一緒に考えたいことがあるので、菅野さんにメールを送らせていただきます。ながいけど!
 

児童相談所の虐待対応件数は、私が関わっている間にも、どんどん増えていき、負担はどんどん大きくなってきています。

面前DV(子どもの前でDVを見せる)が心理的虐待として通告されることが原則になってからは虐待対応件数も倍増し、通常業務の間にもばんばん虐待通告が入ってきます。


一人の児童福祉司が100件以上の件数を担当していると話題になったこともありました。


虐待通告があれば48時間以内に安全確認をします。通常は家庭訪問として行きますが、会ってもらえなければ行政処分としての立入調査をします。この立入調査は、拒否した場合に罰金のペナルティがあるものの、鍵を開けて無理矢理入ることが出来ないので、立入調査がだめであれば裁判所に令状をもらって(★裁判所に児童相談所が申立てる)臨検・捜索をします。(臨検・捜索であれば、鍵を壊したり,扉を物理的に開扉することが可能)


子どもと面談が出来て、安全が確認できれば子どもを保護者に返しますが、安全が確認できない場合、引き続き調査が必要な場合には一時保護が出来ます。ただし、2ヶ月を越えて一時保護をする場合に、親権者の反対があれば裁判所に承認審判(★裁判所に児童相談所が申立てる)をもらう必要があります。


一時保護は原則2ヶ月なので、これを越えて長期間親子分離が必要であれば施設や里親で子どもをあずかります。原則として親権者が反対している場合には施設に入所させることが出来ません。虐待をしていること、あるいは親権者と暮らすことが子どもの福祉に著しく反する事が立証できれば場合には裁判所の審判によって(★裁判所に児童相談所が申立てる)施設に入所させることが出来ます。ただ、なかなかこの審判は立証のハードルが高いです。


こんなまだるっこしい手続きいる?手続きのハードル高すぎない?と思うかもしれませんが、逆に、子どもが虐待されてるかもしれないと疑われたら、特に手続きなしに、子どもをどこかに連れて行かれたり、鍵を壊して家の中に入ってこられたりしたら、大変です。基本的人権が完全に侵害されてしまいます。そんなわけで、裁判所の手続きは必要だということなのです。


これらの手続きは、もちろん弁護士がお手伝いしますが、証拠を作ったり打合せをしたりというのは担当者がします。100件の内、こういう事案がいくつか入っているんです。


なので、よりよい支援をするためには、人員と予算の補強は、もう、しぬほど不可欠です。


これは、私個人の経験ですが、私が所属している児童相談所では、担当者たちが、端から見ると大丈夫?ってくらい、子どもと、保護者のことを真剣に考えているんです。こんなに件数を持ったら、「そんなに一件一件に力入れていられないよ」と考えるのが人情だと思うし、それでもまわるんだとおもうのですが、私が接する職員の人たちはもうみんながみんな、子どもが受けた虐待に真剣に憤り、子どもを心配して、全力で助け出そうとして、助けた後のケアも怠りません。

さらにびっくりなのは、虐待をする状況に陥った保護者を心配して、保護者のケアも全力でするんです。お母さん大変だったね。もう大丈夫だよ。一緒に子どもとの生活を立て直そうねって言って、ゆっくり話を聞くんです。

毎回、会議のたびに、そんなにも!?って目玉とびでます。

もちろん、全部の児相がそうだとは限らないし、私も見た限りのことしか分からないですが、それだけ、きちんと虐待に向き合っている児相、担当者がいるということは、本当にありがたいと思います。


今、目黒の虐待死事件が大きくクローズアップされていろいろな問題点が出てきています。端から見たら、前の児相の一時保護解除って大丈夫だったのかな?とかいろいろ思うものの、事情が分かっていないのに批判するのは良くないと思うので、死亡事例検証報告書が出るまで待とうと思います。


児童相談所に必要とされている改革にはいろいろなものがあります。

今までの時代に合わせて、平成28年、平成29年にそれぞれ大規模な児童福祉法・児童虐待防止法改正がありました。

それでもなお、人員の増員や予算については不十分な点が多いように思います。 


また、児童相談所間の情報共有についても今回不十分だった可能性はあります。現在も虐待のリスクを数値化して、これを共有することで虐待のリスクを共有しようという試みがありますが、このような取り組みをきちんと進める必要があります。また、引っ越しによってリスクが増大することについて、再評価が必要だとも思います。


加えて、他機関連携(主に警察)の話がでています。これについては、実は現在もある程度の対策が取られています。要保護児童対策地域協議会ってご存じですか?まさに、他機関連携の協議会で、警察児童相談所学校等がお互いに守秘義務を負ってケースのことを共有する協議会です。この制度を利用することは非常に重要です。


さらに、警察と児童相談所の情報を全件共有するという話が出ています。これ、私、ちょっと心配です。

児童相談所の中の子どもだけじゃなくて、少年事件、子どものシェルターに逃げてきた子どもとも話をする立場からすると、児童相談所と警察が完全に情報共有している中で、児童相談所に助けを求めることに躊躇する子どもはおおいんじゃないかと思うんです。


今回話題になっているケースは幼児ですが、高学齢の子どもたちは、虐待から逃れて、友達の家を転々としながら、最後に児童相談所に助けを求めることも多いです。その間に、食いつなぐために売春、万引き等の違法行為を行なっていることもありうる。児童相談所は、そうだったとしても、とりあえず逃げておいで!!って言える場所じゃないといけないと思うんです。そこで、警察と児童相談所が情報の全件共有をしているとなると、子どもたちが助けてって言えなくなっちゃわないかという懸念があります。


いろいろな署名活動が回っていますが、ひとつひとつ、制度を調べて、本当によいのかなってみんなで考えていければと思います。


この事件を切っ掛けに、虐待対応に良い風が吹き、もう二度と、どのような虐待死も、おきませんようにと切にいのっています。

(児童相談所非常勤弁護士)
  1. 2018/06/15(金) 16:57:08|
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