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菅野彰

菅野彰の日記です

「弟と熱く古い映画語りをして弟は仕事に遅刻」

 この日記は古い映画のネタバレを多く含みます。
 主に「キャスト・アウェイ」の大事なネタバレを含みます。弟曰くかなりの名画だそうなので、ネタバレを避けたい方は観てから読まれてください。


 子どもの頃、生まれる前に作られた古い洋画が好きでした。「アパートの鍵貸します」や「ローマの休日」 。好きというか、テレビで観る洋画が私の洋画の全てだったので何度も放送されるものを何度も観ていました。「アパートの鍵貸します」は今でも観たい。
 現在も80年代から90年代のものが好きなので、古いものが好きな性質なのだと思います。一番好きなエッセイは「方丈記」だし、好きな小説は新しいところで「忍ぶ川」と「台所のおと」。そういう懐古趣味なんだと最近自覚しました。
 弟もそこは同じで、昔の映画の話をたまにします。
 今日何故か弟の出勤前に映画の話になり、私たちは止まらなくなった。
 自分がすごく好きなものについて同じテンションで語れる人と話し出すと、止まらなくなるよね。
 知ってる。それがおたくという生き物。
 きっかけはもはや思い出せないのですが、弟は言いました。
「『キャスト・アウェイ』(私たちの中ではそんなに古くない方)観た? トム・ハンクスが無人島に漂流するやつ」
「観てないな」
「名作なんだよ。観た方がいいよ。俺は何度も観ちゃう。ちょっとネタバレしていい?」
「いいよ」
 いいよと言うときはだいたい、「観ないかな」と思ってるときです。
「都会で死ぬほど働いてるトム・ハンクスが無人島に漂流するんだよ。そんで、バレーボールが友達になるの」
「は?」
「バレーボールがあってね、メーカーがウィルソンなのかな。だからトム・ハンクスはバレーボールにウィルソンって名前をつけて、仲良く話したり時々喧嘩したりして、蹴ったら『さっきは蹴ってごめん』って謝ったりすんの」
 私はここで爆笑しました。
「違うんだよここ笑うとこじゃないんだよ!」
「だったら何処で笑えって言うんだよ!」
「そんでトム・ハンクスはイカダで無人島から脱出しようとするんだけど、ウィルソンを連れて行こうとくくりつけるの。イカダに。でも大波が来て、ウィルソンは流されちゃうんだよ。トム・ハンクスは大慌て」
「そこが笑うところ?」
「ここは号泣なんだよ! トム・ハンクスが海に飛び込んで『ウィルソーン!! ウィルソーン!!』て泳いでウィルソンを救おうとするんだけど、ウィルソンとはここで別れになる」
「ええと、バレーボールなんだよね?」
「観てみなよ泣くから! トム・ハンクスがすごいんだよ! 悲しいんだよ!! ものすごい深いんだよこの映画!!」
「わ、わかった」
 私はこれはレンタルで観ようと思います。
 ここから、古い映画って時々観たくなるよねという話になりました。
「『プラトーン』は今でも時々観るわ。なんか私の根幹にあるのかな、あの映画は。原罪をバーンズとエリアスというわかりやすい善悪に分けて描いてて、二人は主人公にとって父であり母であると思うんだよね」
「うざいねお姉ちゃん」
「知ってる」
 映画「プラトーン」は1986年公開のベトナム戦争映画で、ベトナム戦争の終結が1975年です。
 この11年の間、私の認識ですがアメリカではふわっとしたファンタジー風味のベトナム戦争映画しかなかった気がします。帰還兵の悲惨な末路がリアルの多分限界で、まだ戦後処理も全く終わっていないので戦争は生々しい現実だったんだと思います。「地獄の黙示録」が1979年の公開で、私は名画だと思いますがやはりファンタジー風味です。
 そういう理由で、「プラトーン」はベトナム戦争後初めて作られたリアリティのあるベトナム戦争映画だったのかと思われます。
 実際アメリカ公開当時、帰還兵は観ていると震えて意識を失うこともあるという話でした。
 作られた順番は逆ですが、私は「プラトーン」を観てから「地獄の黙示録」を観るとわかりやすいと思います。そして「地獄の黙示録」の主演はマーティン・シーン、「プラトーン」の主演はその息子のチャーリー・シーン。これは偶然親子なのではなく、オリバー・ストーン監督がマーティンの息子を敢えて望みました。本当は兄のエミリオ・エステベスが演じるはずだったんです。でも撮影開始時期が延びて、エミリオは大人になってしまった。私はエミリオが大好きなのでこのことは今でも残念です。
 はいおたくの悪い癖ですよ聞かれてないこともべらべら喋るよ。
 ついてきて!
「私自分ですごいなと思うことがあるんだけど、『プラトーン』について」
 私は自慢話をしようと思いました。
「何?」
「映画館で観たのよ、『プラトーン』。学校サボって観た。学校行くよりなんぼか有意義だったわ。当時立ち上がれないほどの衝撃だったんだけど……その映画の中に、アメリカ兵の名もなき一人としてモブにジョニー・デップがいたの」
「へえ」
「そのあとジョニー・デップがブレイクしたのは『シザー・ハンズ』で、四年後とかだと思うんだけど。私ジョニー・デップが売れ始めたときに、『あ、この人プラトーンの中で米軍がベトナムの村を燃やしたときに子どもを抱いて画面を横切ってった男の子だ』ってすぐにわかったんだよ」
「あのさお姉ちゃん」
 弟は溜息を吐いた。
「今現在のジョニー・デップの存在感を見てみなよ。それはさ、お姉ちゃんがすごいんじゃなくて、ジョニー・デップがすごいって話だろ」
「あ」
 なんだよ人の自慢話を。
 正論てなんてつまらないんだ!
 私はこの頃のハリウッドゴシップには辞典になれるくらい詳しいので、「シザー・ハンズ」のヒロインで当時大人気女優だったウィノナ・ライダーが、まだ売れていなかった恋人ジョニー・デップのために「ゴッドファーザー PART III」のアルパチーノの娘役を蹴ったことも忘れていない。蹴って「シザー・ハンズ」にウィノナが出たのもあって、この映画は大ヒットしてジョニー・デップは爆発的に売れた。
 一方蹴られて困ったコッポラ監督は、実の娘ソフィア・コッポラをその娘役に抜擢した。アル・パチーノ演じるマイケルの、大切な美しい娘の役だ。私はその頃ウィノナの美しさをとても愛していたので、映画館で「ゴッドファーザー PART III」を観ながら、ソフィアには本当に申し訳ないが「ああ、ここがウィノナなら。ここもウィノナなら。このラストもウィノナなら!!」と気が散ってしょうがなかった。
 ほらまた止まらなくなる! 許してよおたくだから! 
 まだまだ続くよ!
 「ゴッドファーザー」はとてもおもしろいです。再販売される度に再編集されるので、どれが本物なんだといつも思うけど、今手元には豪華版のボックスがあります。
 その後弟との話は止まらず、「エクソシスト」の話になった。1973年の映画だ。私はこれもテレビで観た。
「あの子役の女の子本当に死んだの?」
「それデマだったみたいだね。私も大人になってから知ったけど」
 この映画は、主人公である子役が撮影後急死したというデマがまことしやかに流れて、「エクソシストは呪われている」とオカルト映画としての評判を上げていた。どうも「ポルター・ガイスト」の話と混ざったらしい。
「私、子どもの頃その話聞いてさ。信じたの、子役は死んだんだって」
 私は子どもの頃、自分がその件について感じていたことを無防備に弟に語り出した。
「私が子どもの頃って、アメリカってもっと大国のイメージだったの。今も大国だけど、何しろ1ドル360円くらいの記憶があってね。ドル高の大国よ。私が生まれる前の話だけどケネディ大統領だって暗殺されてるし、マリリン・モンローだって政府に殺されたと言われてた。アメリカは大国過ぎて、何するかわかんないと思ってたの。だから『エクソシスト』の主人公が撮影後に亡くなったと聞いたときに、映画の話題作りのために暗殺されたんじゃないかと思ってた。それぐらいしそうだなと思ってさ。でもデマだったんだね」
「お姉ちゃん」
 弟は真顔で私を呼んだ。
「ねえお姉ちゃん。お姉ちゃんはどんな子どもだったの?」
「何が?」
「俺の子どもの頃は、『アメリカ? でけえな! 遠いな! 何処だ!?』そんくらいだよアメリカのイメージなんて! ドル高で大国だから何するかわかんないって子どもがそんなこと考えるのおかしくない!?」
「え?」
「大丈夫!? お姉ちゃん!!」
「お、おう。言われて見たらおかしな子どもだな……」
「何考えてたの子どもの頃!」
「赤字国債という言葉をニュースで聞くのが嫌いだったよ……」
「しっかりしてよ!」
「しっかりはしてたんじゃないのむしろ」
「そういう意味じゃないよ!」
「そうだなわかってる。でも私はもうこんな大人なので、手遅れだ今頃そんなこと言われても」
 その後、弟とはインターネットの話になりました。
 古いものが好きなのは姉弟同じらしく、弟はインターネットを毛嫌いして覗こうともしません。
 私は弟のそういうところはいいところだとなんとなく思っています。
「お姉ちゃんその薄い板(iPhone)で何見てんの?」
「一番最近見たのは、土鍋の焦げの落とし方を調べた。便利だよ」
「そんなのばあちゃんに聞けばいいじゃん」
「ばあちゃんもういないから、インターネットで調べたんだよ」
「インターネットがばあちゃんの代わりになれるの?」
「インターネットは決してばあちゃんの代わりにはなれない」
「そんなのむなしいじゃないか」
「なんの話をしてるんだおまえは」
「あ! 遅刻!!」
 インターネットが決してばあちゃんの代わりにはなれないむなしさを私に教えて、弟は仕事に出て行きました。
 ばあちゃんに会いたくなったよばかやろう。
 弟には熱く、「タワーリング・インフェルノ」語りをしました。
 私はこの映画は人生で一番観たし、ブルーレイも買いました。
 ブルーレイを買った理由は、レビューを読んでいたら恐らくご老人だと思われる方が、
「若い頃渋谷の映画館で観て忘れられずに購入。ブルーレイではなんと、当時映画館では真っ黒になって見えなかった暗がりがちゃんと見える」
 と書いてらっしゃって、それはすごいことだと買いました。
 吹き替えは何故か、初期のテレビ放送当時のまま。私はこれをテレビで何度も観たので、懐かしさから最初吹き替えで観ました。
 しかし時々、突然英語になる。
「なんだろう? 誤作動?」
 考え込みながら観ていて、私は理由に気がついた。
 テレビ版は、三時間近いものを二時間程度に編集してします。
 だから完全版「タワーリング・インフェルノ」には、テレビで吹き替えされていないシーンがたくさんある。そこは英語のままという暴挙。
「何故この吹き替えにこだわった……声優さん何人かもう亡くなってるし」
 気が散るので途中で英語に変えました。
 しかしこれは本当に本当に名作です。
 絶対観て。
 ものすごくおもしろい。
 この映画についても微に入り細に渡って語れますが、もう私のオールドムービートーク飽きたでしょう……? なんなら辟易してきたでしょう?
 知ってる。
 最後にスティーブ・マックイーン繋がりでもう一つだけ言わせて。「大脱走」は目茶苦茶おもしろいだけでなく、ものすごい萌えがある。ものすごい萌える二人が出てくるから必見です。
 散々語っておいてなんだけど、このぐらいにしておいてやるわ。
  1. 2015/12/04(金) 14:34:24|
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