菅野彰

菅野彰の日記です

「朝彦と夜彦1987」を終えて/菅野彰

 最後に私の話です。
 この物語に原作本がないことを、私がとても気にしていた意味が、観たらわかったと友人が言いました。
 もしこの物語に小説なり漫画なりの原作があれば、私はどんなメディアミックスも、編集部に全部任せます。今まではそうしてきました。
 それは、担当さんは時には私より私の書いたものを理解してくれることに間違いはないし、時には私より作品を愛してくださいます。シリーズを書いていると、担当さんから私自身にキャラブレを指摘されて、書いていてハッとすることさえあります。
 だから、担当さんにお任せすれば、間違いは何も起こりません。
 もし万が一私がこれは違うということになっても、そのときは、
「原作本を読んでね」
 そう言えば済むことなので、最悪の場合違ってもいいんです。正解は用意してあるから。
 二組のペア、全く違ったし、そして毎回それぞれが違いましたよね。
「どっちなの、どういう話なの?」
  と、何度も聞かれました。書いた私としては、
「これこれこういう話で結論はこうです」
 実は簡単に、二行くらいで答えられます。
 これはでも、今まで元の戯曲を読んでくれた友人達も、読んでもどちらなのかはわからないというので、元々そういう話ではあります。結論は観た方に委ねたいところは、大きかったです。ちゃんとそうなるところは、正直想像しませんでしたが。
 それを更に、ややこしくしてくれたのは、中屋敷さんと四人の役者さんでした。
 二組のゲネプロを観ていて、あ、私中屋敷さんにその、
「これこれこういう話で結論はこうです」
 という肝心なことを、すっかり言い忘れたけどでもまさかこんなにマルチエンディングになるなんてこっちは想像もつかなかったから、天才恐ろしい! と、思いました。
 大事な台詞、何も変わってないです。小道具がないから、「妄想化学雑誌」が、「妄想化学雑誌ムー」、になったりなど、そのくらいしか変わってないです。
 思いの外、観た方に疑問を残したことがやはり内側でも話題になり、私は全部の質問に答えられると企画さんに言ったら、
「誰にも言わずに死ねー!」
 と、松田夜彦並の勢いで口を塞がれましたので、言うと殺されるので死んでも誰にも言いません。私死にたくない。
 中屋敷さんも、企画さんも、戯曲読んだ方々も、私の結論は知らないです。
 でも、それはもはやどうでもいいことになりました。
 観た方が受け取った答えが、観た方の正解です。
 とにかく私は朝彦と夜彦がすっかり私のものではなくなって、とても清々しています。ああ、重荷だった。
 企画さんが私のこういう気持ちを、理解してくれていることを昨日はっきり知りました。
 役者さんたちと話しているときに企画さんが、私の思い入れにもしかしたら誤解しているかもしれない彼らに(だからキャラブレしてはいけないという思いで、いろいろ聞いてくださった時などです)、
「菅野さんそういう人じゃないから。うちの朝彦ちゃんがどうとか、そういうことではないの」
 と、何度か説明する姿を見て、あ、わかってくれてるんだと知ってはいましたが、昨日そんな話をしました。
 私は普段、自分の創作物の中にいる登場人物に、ここまでは執着しないです。
 それを愛がないとは思わないでください。小説の登場人物は、もう読者さんと共有できているからそれでいいんです。それが嬉しい。
 そうすることがずっとできない上に、どうしても野に放ちたかったのが朝彦と夜彦なので、私はもう諸々悔いのない気持ちです。
 次の話をしてくださる方もいましたが、ゲネプロから一週間以上、中屋敷さんと役者さん達、制作さん達のおかげさまで、
「私もしかしたら天才なんじゃなかろうか」
 というアホな錯覚に酔いしれることもできて、正直、これ以上のものを書ける気持ちも全くしないです。
 こんなことは、十二年に一度で充分だなと思いました。
 私の著作物に興味を持ってくださった方も嬉しいことにいらっしゃったので、せっかくなので本業の話をさせてください。
 私は本業は晴れ時々BL作家、雨が降ったらエッセイスト、くらいの感じです。
 あ、それで思い出したんですが。余談。
 とにかく告知が突然だったので、諸々たくさんの媒体に宣伝していただいたようです。私もいくつか拝見しました。
 一生懸命宣伝してくださったのに申し訳ないのですが、なんだかとてもおもしろかったのでどうしても言わずにはおれない。ごめんなさいこれ私の病気なので。
 何処かの媒体さんが、
「中屋敷法仁演出! BL作家台本! テニスの王子様の宍戸先輩! BREACHの黒崎一護! 仮面ライダー!」
 そんな感じで宣伝してくださるのを、見かけました。
 それぞれのアピールポイントを丁寧に探して拾ってくださったんだと思うんですが、全部混ぜたら爆発しそう……と思い爆笑してしまいました。
 私のことは差し引いてくれた方が良かったのでは、混ぜるな危険みたいになってるけど、と楽しく読ませていただきました。
 すみませんとてもおもしろかったです。
 自著の話をします。
 BL作家であることは何も恥じませんが、BLは受けつけない方に押しつけるものではなく嗜好が合えば読めるという特殊性があると私は思っているので、無理に読んでみなくてもいいと思います。
 それでもトライしてみようと思ってくださった方は、新刊の「愛する」(キャラ文庫)が私は今とても好きなので、良かったら勇気を出して捲ってみてください。
 BLでない小説は、近刊だと「あした咲く花 -新島八重の生きた日々-」(イースト・プレス)になります。新島八重をモデルにしたフィクション、時代小説です。
 しかし多分ご興味いただけましたら、エッセイがハードルが低いかと。
 エッセイは16冊出ています。
「女に生まれてみたものの。」(ウイングス文庫)
「あなたの町の生きてるか死んでるかわからない店探訪します」(ウイングス文庫)
 などが、読みやすい……かも。わからない。
 メインで書いているのは、「帰ってきた海馬が耳から駆けてゆく」です。このシリーズは8冊出ています。
 WEBエッセイ、会津「呑んだくれ屋」開店準備中で試していただくのが早いかもしれません。酒の話しかしてないですが。
 桑野さんのファンの方は、たまたま手元にあって、理由があって桑野さんにそれを謹呈したので、「帰ってきた海馬が耳から駆けてゆく3」を読まれてみるのもいかがかと。
 私は桑野さんについそれを差し上げたことを、ちょっと読み返してかなり後悔していますがおもしろい本だと思いますよ……。
 別に販促のために桑野さんに差し上げた訳ではありません。
 本当は今回の上演の前から、私にとっては同一のテーマでの小説の刊行が決まっていて、今年中にはその原稿を書く予定です。
 しかし私はすっかり成仏してしまって、それはもう営業さんも、
「うちの原稿!」
 と、叫んで帰る訳です。
 本業頑張らないとね。
 ライターの友人が、そちらも友人である旦那さんが、かなり大きなメディアミックスをいつもしている会社の編集さんなので、
「菅野さん全部自分でやってるの? 打ち合わせとか。大丈夫なの?」
 と、心配してくれていると聞かされました。彼にとっては全く意味不明で、本当に心配してくれたのがわかります。
 正直途中で誰かを頼ろうかと思いましたが、自分でやりたかったことなので、疲れたけど悔いはないです。
 でも結局劇場にはほぼ担当鈴木がいてくれて(しかもチケット代まで払ってくれて……)、鈴木はあれでいて実はとても気遣いなので、最後には多分私より疲れ果てていました。死んでしまうかと思いました。助かりました。
 毎日感謝しかなくて、感謝は最良の感情だけど自分一人では持てない感情だから、こんな毎日ずっと感謝できることなんてなかなかないと思います。
 自分のものとはもう全く思えなかったので、気軽に観た方の感想も聞けたし、読めたりもしました。
 お一人、とてもきれいなカラーのイラストを、アンケートの裏にびっしり描いてくださった方がいらして。
 とてもきれいでそれももちろん嬉しかったんですが、夜彦が見た合唱の光景が、描かれていたんです。
 これは夜彦の口から語られるだけで、そのもののシーンはないです。
 しかしそのイラストが私の頭の中にあったイメージそのままだったので、中屋敷さんと役者さん達が、ちゃんと伝えてくださったんだととても感慨深かったです。
 千秋楽には、四人の役者さんそれぞれの朝彦と夜彦が描かれた絵を、私に置いて行ってくださいました。奥ゆかしい方で連絡先もわからず、お礼も言えません。
 出頭して欲しいです。お願いします。
 様々気軽にみなさんの感想や憶測も聞いて、どれも嬉しく楽しいし、重ねていいますが全てが正解です。
 その正解とは全く別に、私が見かけて、嬉しい言葉があります。
「私は今、健やかだ」
 その言葉が聞けたときが、一番嬉しい。
 それが答えな訳ではないです。その方が、今、そう言えることが本当に嬉しい。
 もし今は言えない状況の中にいる方も、いつか言える日が来たら、私のことを覚えていたら、教えてくれたら嬉しいです。
 劇場で、自分で書いた話を観て泣いている奇妙な私を、見かけた方もいらっしゃるかと思います。本当にもうそれだけは絶対したくなかったのに、心から恥ずかしいです。
 それもこれも、創った方々の力以外の何物でもないです。
 どうして朝彦と夜彦にはこんなに感情的になってしまうのか、ずっと恥ずかしかったですが、観ていただいて、朝彦と夜彦が観てくださった方々のものになるのを眺めていて、何故こんなに固執し続けたのかがよくわかりました。
 十二年も、朝彦と夜彦は私一人のものでしかなかった。
 それが今回、最良の形で、たくさんの方の力で、たくさんの方のものになりました。
 今後これ以上、私は朝彦と夜彦に一人で固執することはない。
 私も今、とても健やかです。
 ありがとう。

asayoru1987.jpg
  1. 2015/11/07(土) 03:29:06|
  2. 朝彦と夜彦1987