菅野彰

菅野彰の日記です

「夏の終わりの日記ですよ」

 釜石に行ったのが七月の末で、そのときのことをずっと書きたいと思っているのですが。なかなか、冷静な気持ちで書くのが難しい。そこに台風が来て、なんとも。現地の方にできることなど伺ってから、改めて書きたいと思います。静かな気持ちで書かないと聞いてもらえないこともあるよねと思う。聞いて欲しいことがたくさんあった。

 そして一つ前の「音源を探しています」をそろそろ削除しようかと思っています。申し訳ありません。見つかる気配は今のところないです。

 この音源問題と、無断上演問題が重なってさすがに気持ちが参っていた時期がありました。
 無断上演についてはここで改めて申し上げますが、私の個人的な感情です。言ったら契約とは無関係です。
 たとえば他の作品の同人誌が送られてきても、私は楽しく読んでいます。それは他の作品を軽んじているのではないのです。
 この戯曲だけは駄目なんです。私は本当にいやなの。いやだって言ったはずなのにどうして、と。
 そういう、契約とか権利とかではない感情のことなので却って参りました。

 そんな感じで低空飛行で、夏場都内の百貨店に入りました。
 広い食品売り場の日本酒コーナーで四合瓶を一本買って、煎餅屋に移動しました。
 この話、お金のある人の話だと受け取らないで欲しいのですが。できればまっすぐ、人ってという話として届くことを願います。
 煎餅屋までは日本酒コーナーから遠く、そこで贈答用お煎餅の熨斗の宛名書きを書こうとして、床に日本酒の入った袋を置きました。
 角度が悪かったのか、見事に二つに割れてしまった。
 こういう気持ちが落ちてるときに物が壊れたりすると、十倍くらい参る。
 百貨店の中で買って百貨店の中で割ったので、もしかしたら日本酒コーナーにこのまま戻れば新品と変えてくれるかもしれないとは思いました。
 百貨店って、いい意味でそういうものだと私は思っています。値段が張る理由は、信頼とアフターケアで、時にはやさしさ。やさしさをお金で買うのかって話になるかもしれませんが、長くつきあえば信頼関係ができて、しない無理をしてくれたりすることもあるのが百貨店なんじゃないかと私は思います。気持ちがあるかないかを信じるのは、受け手次第。
 この百貨店の話と、私が接客していただいた女性のことは関係ないともあるとも言える話です。
 前二つの件ですっかり疲弊していたので、私はもういいという気持ちになりました。変えてくれるかもしれないけど、割れたのではなく、自分で割ったのは確かだし変えてもらうのもと思って、
「大変申し訳ないんですが、このまま処分だけお願いしてもいいですか?」
 煎餅屋の店員さんにお願いしました。
 二十歳くらいに見えました。とても若い女性でした。
 随分長いこと、彼女は考え込んでいました。
「これ、お預かりしてもいいですか?」
 私が割った日本酒を持って走って行きました。
 長い時間が経って、彼女は厳重に包まれた同じお酒を持って戻って来ました。
「お気を付けてお持ちください」
「でも私、自分で割ったのに」
「宛名書きしていただくときに、お預かりしなくて申し訳ありませんでした」
 その上頭を下げてくれました。
「ありがとうございます」
 お礼を言って、お酒をいただきました。
 これは私の想像ですが。
 彼女はとても若かったし、私が「処分してください」とお願いしたときにかなり長く考え込んでいました。
 新品と変えてもらえるかどうかはわからなかったけれど、彼女の考えで遠い日本酒売り場まで走ってくれたのではないでしょうか。
 自分で一生懸命考えて、答えがわからないかもしれないのに走ってくれて、息を切らして戻ってくれた彼女の勤めているこの店舗、この百貨店でまた買い物をしようと思いました。
 これは何処ででも言えることです。何処ででも、またお願いしたいという人に出会えたら仕事をお願いしたいです。
 疲労や落ち込んでいた気持ちも少し晴れて、後日百貨店宛てにお礼のメールを書きました。
 人材ってこういうことなのかなと思ったりしました。
 ふとやさしくされるとただ嬉しい。ただありがたい。
 書いておきたかったので、夏が完全に終わる前の日記でした。
  1. 2016/09/04(日) 20:42:12|
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