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菅野彰

菅野彰の日記です

「中屋敷法仁リーディングドラマ 朝彦と夜彦1987」10/29~11/3 赤坂RED/THEATER

「中屋敷法仁リーディングドラマ 朝彦と夜彦1987」

 こちらのリーディングドラマの、台本を書かせていただいています。
 素晴らしい演出家さん、情熱溢れる役者さんたちです。
 普段私の本を読んでくださる方に、今回の上演からは話が逸れてしまいますが、少しご説明をさせてください。
 この戯曲は十二年前に書いたものです。上演予定で書いたのですが、その上演はなくなり、結局一度本に載せていただいて(こちらの本は絶版になっております)十二年ずっと眠っていた戯曲です。
 せめてと本に載せてくださった編集部には本当にありがたい気持ちでいっぱいですが、やはり戯曲は戯曲なので、このままでは何も意味を持たないなと思いながら十二年経ちました。我ながら大層気が長いなと思います。
 物語としては、山田睦月先生の漫画原作をさせていただいた「恋愛映画のように、は」に収録されている「夏の声」に酷似していますが、テーマが全く違います。何度か、せめてこの「朝彦と夜彦」を小説に直そうとしたこともありますが、戯曲を前提に考えた物語だったのでできませんでした。
 そんな中で、今回思いがけず、才能溢れる演出家の中屋敷法仁さんにリーディングドラマとして上演していただけることになりました。四人の役者さんも、みなさん才能と情熱に溢れる方々です。
 このままこの戯曲は眠り続けるのだろうと思っていた私には、こんなに立派な布陣で上演して頂けることは本当に望外の喜びです。
 そして上演台本は、戯曲の形は取っていますが内容はいつもの私です。
 普段本を買ってくださっているみなさまにはちょっと本よりは高めの、3900円というチケット代金ですが、私はどうしても観て欲しい。
 にも関わらずギリギリの情報解禁になってしまったことを、お詫びしなければなりません。申し訳ないです。
 様々既にご予定もおありかと思いますが、是非観に来てください。
 よろしくお願いします。
  1. 2015/10/08(木) 00:00:00|
  2. 朝彦と夜彦1987

「私の変な美容師九回目だけどもう何回目かよくわからない」

 先日、中央線沿線の美容院にまた行きました。
 今回は私が、ちょっとやらかしました。
 平日の午前十一時に予約したので、到着するとお客さんもそんなにはおらず、私の変な美容師Sくんが珍しく中で髪を切っておらずに、入り口のホールみたいなところにいました。
「ああ○○さん(私です)」
「ああSくん」
 彼が私に歩み寄って来て右手を差し出したので、
「やあやあどうもどうも」
 みたいな感じで私はなんの躊躇も疑問も抱かずに、両手で彼の手を握りました。
 彼は真顔で言った。
「○○さん。握手じゃないんだ。荷物をくれ」
 この話を月夜野にしたら、
「やっぱり政治家の血が流れているね」
 と、呆れられました。
 私はとても恥ずかしかったです。
 その日は大荒れの天気予報のはずでしたが、見事なまでの秋晴れで暑いくらいでした。
 髪をなんかされながら、
「爆弾低気圧何処行ったんだろうね」
 と、私が呟いたら彼は、私の左側に立っていたAさんというアシスタントさんに声を掛けました。
「Aさん」
 呼びかけられたAさんは、淀みなく言った。
「爆弾低気圧は午前五時半頃関東地方を通過して、予想外の早さで現在北海道におります」
「なんなの!?」
 なんなのこの美容院!?
「うちのお天気お姉さんなの」
 Sくんは、いつものことみたいな感じで言いました。
「お天気詳しいの?」
 Aさんに尋ねると、
「お天気はとても大事です」
 そうAさんは答えました。
 そこから食べ物の話をしていて、常々思っていたことを私はSくんについ言ってしまいました。
「好き嫌い多いよね」
「そんなことないよ……あれとこれとこれとあれが食べられない」
「多いじゃない」
「○○さん鮭の皮食べられる?」
「大好き」
「エビの尻尾は?」
「普通に食べるよ」
 なんでそんなこと聞くのだ食べられないのかと思って聞いていると彼は突然、
「あなたの今日一日の幸せをお祈りしております」
 と、手で小さな丸を作りました。
「なんなの!? やめてよ変な呪いかけるの!!」
「え? 知らないの? ジップ観てない?」
「なにそれ」
「今日のジップで、鮭の皮が食べられる人はエビの尻尾も食べられるってやってたんだよ。ジップで最後にこれやるの。あなたの今日一日の幸せをお祈りしております」
「それ知らない人にやったら、なんの新興宗教かと思われるよ」
「心外だな。ジップ観ないで何してるの?」
 観なければならないのかジップは。
「寝てるんじゃない? その時間私」
「いいご身分だね。じゃあ、もこずキッチンも観てないんだ?」
「ああ、観たことないけどオリーブオイルを掛けまくる番組」
「そうそう。もこみちイケメンだよね」
 ちなみにこの番組、幼なじみは「高いところから塩を振る番組」と、言っていました。
「えー?」
 もこみちイケメンだよね、と言われて私は同意しませんでした。
「イケメンだと思わないの?」
「イケメンかもしれないけど、好みじゃないかな」
「へえ。じゃあ好きな男性芸能人って誰?」
 私は随分長いこと彼に髪を切ってもらっているけれど、こんな公共性の高い質問をされたのは初めてだと気づきました。
「高橋一生」
 最近ドラマ「民王」で私ももれなくはまったので、答えました。
 しかし高橋一生さんは御年三十四歳芸歴二十四年だそうですが、私も最近まで彼の名前と顔がぼんやりしか一致していませんでした。
「いしだ壱成?」
「いや、高橋一生」
「坂本一生?」
「だから高橋一生」
「誰それ」
 私もあまり高橋一生さんの存在に気づいていなかったので、名脇役なのだと思います。もちろん長いファンの方もいらっしゃるようですが、私は本当に最近はまった人なのでSくんのことは何も言えませんが、このちょっと前に私たちは大河ドラマ「黒田官兵衛」の話をしていたばかりでした。高橋一生さんは、井上九郎右衛門役で出ています。
「黒田官兵衛全部観た?」
 私は尋ねました。
「観た」
「最後に黒田官兵衛が死ぬところで、三人の重臣が看取ったでしょ? まさに、もこみちがそこにいて」
「いたね」
「残りの二人のうちの一人。多分黒田官兵衛の足下辺りにいた方」
「auのCMの金太郎?」
「それ真ん中にいた人ね。濱田岳」
「じゃあ松田翔太?」
「auのCMの話してるんじゃないんだよ。黒田官兵衛の家臣」
「え? もう一人? 誰だっけ?」
「多分割と早くから出てずっといたよ」
 まあ、私も気づかなかったわけなんですけどね……。
「何してた?」
 Sくんは違う話になってはどうしても残りの一人が気になるらしく、度々私に聞きました。
 最後に、
「笛吹いてた」
 と、言ったら、
「ああわかった! もこみちの方がイケメンじゃん」
 地味な顔だなーと呟いていました。
 私もそうは思いますよ……。
「どうする? 今日」
 髪をどうするか彼に聞かれて、私はいつもお任せなのですが、地元の友達にとてもSくんの切る髪が評判が悪いので試しに言ってみました。
「全力で普通にかわいくしてみて。普通に」
「普通? それ前髪短くしちゃ駄目だってこと?」
「それが普通なら短くせずに」
「えー?」
 不満そうに彼は黙々と、私の髪を切りました。ずっと黙って切っていました。
 できあがりはとても普通に形が良くて、友人にも好評でした。
「あ、ごめん無言で。真面目に切っちゃった」
「いつもは真面目じゃないのですか」
「真剣に切っちゃった。でも僕は前髪が短い方がいいと思う」
「まあ今回はこのまま帰るわ」
 この日彼は、その美容室で何かアプリを導入したという話をしました。
「会員証もういらないの。入れてよ、そのアプリ」
「いいよ」
「今すぐ入れる? 携帯持ってくる?」
「帰りにやるから。ちゃんとやるから」
 五回くらい彼は、
「携帯持って来ようか」
 と、言うので、
「なんなんだどうした落ち着いて」
 と、諫めたら、
「昨日からこの制度が導入されて、僕はこのアプリが作動するところを一度も見たことがないので見たいだけ」
 そう抜かしました。
 お会計をして、言われるままにアプリを入れました。
「あ、そこ。そこ開いてて!」
 なんだか集音マークみたいなのが出て、Sくんがそこに何かを照射しました。するとその場でポイントがアプリの中に加算される。
「おお、これは確かに便利」
 カード持ち歩くよりいいなと、私は感心しました。
「すごい! こうなるんだ!!」
 Sくんがそれを初めて見て感激しているので、
「満足した?」
 と、尋ねるとSくんは近くにいたアシスタントの女の子に、
「ねえこんなにポイント入ってうちの美容院大丈夫なの?」
 と、訊いておりましたとさ……。
 飽きない男だ。


 ところで私は、この間静岡に行きました。
 私は静岡県民に問いたいことがある。
 私は長いつきあいの編集さんが静岡なので、
「この間行きましたよ。静岡、清水」
 そう言いましたら編集さんは、
「私三島なので。清水とか行ったことないですし、同じ静岡って感じがしません」
 みたいな反応でした。
 Sくんも静岡出身なので、
「行って来たよ、静岡。清水」
 そう言いましたら、
「僕愛知寄りなんで、清水とか行ったことないし。同じ静岡って感じしない」
 と、リアクションが悪い。
 え? そういうもんなの? 静岡県民、と私が戸惑っていると、
「伊豆いいところだねとか言われても、なんにも答えられないからね。あそこ東京と変わんないから」
 Sくんは言いました。
「食べ物とお酒美味しかったよ……」
 一応私は、静岡県を褒めてみました。
 すると彼は、
「ああ、それね。静岡の良くないとこね」
 と、言い出しました。
「海のものもとれるし、気候も温暖だから農作物もよくとれるし。あんまり食べ物に困ったりしないから、静岡県民ガツガツしないんだよね。ちなみに僕もガツガツされるの苦手」
 なんかでもそれは言われると、静岡県民の県民性がどうというより、人として食物が潤沢だとのんびりするよねと納得して聞いていました。
「だからマイペースな人が多い。困るときある。Mさんとかそうじゃない」
 ふと、Sくんはアシスタントの女の子に、同僚の悪口を恐らく悪気なく無意識に言いました。
「え?」
 アシスタントの女の子は、当たり前ですがとても困りました。
「Mさん、典型的な静岡県民。マイペースで頑張らない」
 なおもSくんが言うとアシスタント嬢は、
「私はそうは思いません」
 と、きっぱり言いました。
 あなたはとても偉いな、この男のそれこそマイペースなトークに巻き込まれて同僚の悪口にうっかり頷いたりしない判断力があると、感心しました。
 Sくんと一緒に働くのは大変そうだな!
 それで私が静岡県民に問いたいと思ったのは、二人ですが何故この、
「静岡行ったよ」
「あ、自分そこの人間じゃないんで」
 という不思議な受け答えになるのだろうか……という。
 私なら、
「この間福島行ったよ」
 と、言われたら、
「へー何処?」
「郡山」
「ああごめんそこ藩が違うね。たまたま廃藩置県で同じ県になったけど」
 と、ちゃんと返します。
  1. 2015/10/05(月) 12:36:32|
  2. 私の変な美容師